粋を探求するー

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2015-05-12

「野に生きる粋」 萱森隆一 インタビュー

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※このインタビューは『粋人記』(粋文化探求会編・2013年発刊)から抜粋したものです。

新潟県加茂市にある「かやもり農園」。
この農園から生み出される米は多くのファンを持つ。
独自の農法でこだわり抜いた米は、消費者に直接販売され、全国から注文が届く。1700年代、江戸幕府第五代将軍徳川綱吉の時代にかやもり農園の歴史は始まる。その10代目が萱森隆一氏。
現在4世代が同居する萱森家を訪れ、その取り組みに対する姿勢と背景を聞いた。

やっと最近旨い米というのがわかるようになりました

まず萱森さんがやられている農法について、お聞きしたいのですが。

鮭と鰯の頭、そして榛名菌という300度の温度でも死なない特殊な土着菌を使って、熱を加えて発酵させて、肥料にしています。鮭は地元の川で捕れるものなのですが、これは稚魚を孵化させるための卵採取のためで、体の部分は処分に困るものなのです。それを引き取って、毎年大体一万匹ほどの鮭を肥料にします。

鰯の頭も市場で処分に困るもので、鰯の頭は体の10%ほどなので、60トンだと6トンが廃棄になります。廃棄するにも相当なお金がかかる。そこで、知人から相談があり、使い始めました。

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以前から、そういった肥料作りに取り組んでいらっしゃったのですか?

若い頃に『現代農業』という雑誌を読んで、そこに書いてあった微生物に興味を持ちました。いろいろやってきたなかで、やっぱり最後は土着菌が一番いいのではないかということで、いまは榛名菌を使っています。

鮭と鰯を使う前は、野菜や残飯を使っていたのですが、鰯の頭を使うようになってから、できた品物が良くなりました。それで米が売れてきたのに、鰯が捕れなくなって、肥料にできなくなった。そんな時に処分に困った鮭の話を聞いてすぐに地元の漁協に飛んでいきました。それまで野菜などから作った肥料ではなかなか旨い米ができず、以前から、魚を使ってみたいと思っていました。

肥料以外にされていることはありますか?

有機肥料を使って元気の良い稲を作ると、根が強いので、段々と地力がなくなっていきます。そうすると有機肥料を使っていても、米の旨味が落ちてくるんです。そこで2年ほど前から実肥をしています。稲刈りの一週間前から10日前後に、窒素を与えるんです。普通は、稲が倒伏してしまうことを恐れて、稲刈り前に肥料を加えることは敬遠されるのですが、実際自分のところで実肥をするようになってから収穫量が上がりました。

それと、もう一つは植酸の葉面散布です。植酸は植物から抽出した有機酸で、植物本来の力をより発揮できるように手助けするものです。それを植物が一番吸収をしやすい稲の葉の裏側の気孔から吸収させるために散布します。これを春先から生育途中に5回ほど行うのですが、米の生育にすごく効果があります。土を有機肥料で作る人は多いですが、植酸の葉面散布までする人は、うち以外にいなんじゃないかと思います。

一連の米作りのなかに、たくさんのこだわりがありますね。

鮭や鰯に熱を加えて発酵させた肥料を使って、実肥で地力を増すようにして、植酸の葉面散布を組み合わせて、そこで味が断然良くなって、やっと最近旨い米というのがわかるようになりました。

耕土耕心

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萱森さんの米作りなどに対しての何かに打ち込む姿勢はどこから来るものなのでしょうか。

まず興味を持って、自分が確実だと思うことを、失敗を恐れずにやり続けることだと思います。そうすると自信も出てくる。そうやっていると不思議なことに、まわりからいろんなものが自然とやってくるんです。鮭も鰯も向こうから何かに使えないかとやってきた。榛名菌も、榛名山がある群馬から人がやってきて使ってみることになりました。

探究心を持って、やり続けているからこそ、そうした出会いに恵まれるんですね。

肥料を作る工場も自分で数年かけて作ったのですが、実は弟がやっている自動車整備工場で冬の間働いていた時期があり、その時身につけた溶接の技術などが、とても役に立ちました。それと井戸掘りの仕事をやった時も、技術と勘が必要な誰でもできる仕事ではなかったので、自分の経験が役に立ちました。その時々に自分のやるべきことを追いかけてきたら、他のことにも役に立ったということは良くあります。

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米作りだけではなく、生き様そのものが一貫していますね。

「耕土耕心」という居間にも飾ってある言葉があるのですが、自分が心がけていることです。土を耕すだけではなく、人として心も豊かになるように耕していくことが大切だと思います。うちは稲のタネを、新潟県内では他品種と交配させた偽物のコシヒカリがほとんどなので、あえて富山から本物のコシヒカリを仕入れています。それも旨い米を作るために自分が確実だと思うことをやらなければいけないと思うからです。自分が信じた自信を持てることをやり続けることで、心も耕されていくのではないでしょうか。

それは萱森さんが健康でいらっしゃる秘訣でもあるかもしれないですね。

それはわかりませんが、いままで怪我をして救急車で運ばれて、入院したことは何度かあるのですが、病気では一度もありません。怪我するたびに妻には「家族の悪いことをお父さんが引き受けてくれている」と言われています……。

かやもり農園 http://www.kayamorinouen.com/