粋を探求するー

粋な振る舞い、粋な着こなし、粋な言葉、粋な生き方
2015-03-17

「琥珀の色に粋を見る」 銀座カフェ・ド・ランブル 関口一郎インタビュー

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※このインタビューは『粋人記』(粋文化探求会編・2013年発刊)から抜粋したものです。

終戦から3年後の1948年、当時はまだ珍しかった
「コーヒーだけ」を提供する小さなカフェを銀座で開き、
今も変わらずお店に立ち続けるカフェ・ド・ランブルの関口一郎さん。
コーヒーの全てにこだわり、精魂込めて淹れられた極上の一杯を求めて、
国内はもとより海外からも多くの人が店を訪れる。
関口さんのコーヒー人生の原点と、
コーヒーを追求し続ける飽くなき姿勢の奥にあるものを探る。

最敬礼をして帰るお客さん その笑顔を見るのが最大の報酬でした

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開店から銀座でもう60年以上になりますが、なぜ関口さんはコーヒー店を開いたのでしょうか?

こんなに長く生きてるとは思わなかったね、もうあっという間。気がついたら歳をとっていました。数えで100歳になります。最初はコーヒー屋になろうとは思ってなかったんですよ。元々は技術者でしてね。戦争から戻ってきて、映画の機械を扱う会社を立ち上げたんですが、お客さんを接待するのに自分で淹れたコーヒーを出していたんですよ。それが評判になってねえ。いままでこんな美味しいコーヒーを飲んだことがないってね。でも、その映画の会社が3年くらいで倒産してしまって。そこで、以前からのお客さんたちから「美味しいコーヒー屋がないからやってくれ」と言われまして。食いつなぎの意味で始めたんですよ。でも、次から次へとお客さんがお客さんを連れてきて、繁盛しましたね。

開店当時から変わらず、この場所でお店を?

最初は西銀座の、狭くて傘がさせないくらいの路地の奥に店を出しました。営業許可が下りなくてね、防火ができないからって。でも、幸い非戦災家屋だったので、やっと許可をもらって。昭和23年に小さな7~8坪の店で始めたんですよ、「ランブル」という名前で。ランブルというのはコーヒーの色なんです。琥珀色という色が私の理想とするコーヒーの色なんです。分かりにくい場所でしたが、本当に美味しいものを出していればお客さんは探してでも来てくれる土地柄ですから、お客さんはよくいらっしゃいました。みんなうちのコーヒーに喜んで最敬礼で感謝して帰られる。外国で飲んでいたんでしょう「日本でこんな美味しいコーヒーが飲めると思わなかった、長生きしていてよかった」というお客さんも大勢いましたね。そんなお客さんの喜んでいる顔を見るのが私にとって最大の報酬でした。
当時はコーヒーだけを出している店は他になくてね。他でもキャバレーなんかではコーヒーを出していましたが、普通は50~60銭、銀座で一流の店でも一杯90銭。私の店は1円でスタートした。かなり売り込みもしたし、有名になって評判は良かったですね。でも、隣の店で火事を出されて焼けてしまって。それで40年くらい前に銀座8丁目の今の場所に移ってきました。
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当時はまだ「コーヒー」という飲み物自体が珍しかった時代だと思いますが、関口さんはどのようにしてコーヒーと出会ったのでしょうか?

生まれが浅草なんですよね。小さなころに近所でコーヒーを飲ませる店があって、最初に飲んだのが割合美味しかった。「男の飲み物だ」と思いましたね、自分の好みにあった飲み物だなあって。それからコーヒーに対する興味が湧いてきましてね。その頃はミルクホールという牛乳屋さんが副業でコーヒーを出すくらいで、純粋なコーヒー屋はなかった。そのうちハイカラな喫茶店がでてきて、どこでもコーヒーを出すようになって。10代の時はプール帰りによく喫茶店に通いましたが、何軒も通っているうちに、調理場の奥でから豆をガリガリと挽く音が聞こえる店が美味しい店だと検討がついてきた。だからそういう音がする店をあちこち寄って歩いて、手みやげを持って調理場にお邪魔してね。「私もコーヒーが好きで、美味しいコーヒーをつくりたいから手元を見せてくれ」って、そういう店を見つけては中を見せてもらいました。

そのうちに、ご自分でもコーヒーをつくるようになって?

受験勉強の時に夜おそくまで勉強していると眠くなるでしょ。眠気醒ましでコーヒーを飲みたいと思ったけど、夜じゃお店はやっていない。それで自分でつくろうと思っていろいろコーヒーを買ってきてね。でも自分でつくってもまずくて飲めないんですよ。同じコーヒーなのに何でこれだけ味に差があるのかって疑問を持ち始めた。それからどんどんのめりこんじゃって、コーヒーそのものの研究を始めてしまったんです。その時分には参考になる書籍は全くなかったんで、上野にあった国立図書館に行ったんです。すると『ALL ABOUT COFFEE』という洋書があった。でも貸し出しはしてくれないんで、毎日のようにその本を読みに行ったんです。辞書とつきっきりで読むから、毎日1~2ページしか読めない。すると館長さんが「そんなに興味のある本なら、事務室に置いてあげるからそこで読みなさい」と親切にしてくださってね。そういう知識を全部自分で身につけて、いろんなところから自分で豆を買って挽いて飲んで。店によってみんな味がちがう。その時分に買いに行ったお店の先代の息子たちがみんな社長になって、よく自慢してましたね。あんたの会社は先代から知ってるんだって言ってね、いまでも取引しているところがありますよ。

無いものは自分でつくる 美味しいコーヒーをつくるために

カフェ・ド・ランブルにはオリジナルのメニューがたくさんありますが、中でも卵の黄身を入れる「ウフ」は斬新で美味しいですね。

メニューは開店当初からほとんど変わっていません。「ウフ」は本の知識から。元々フランスあたりの飲み方だったはずですが、今のフランス人でも知らないですよ。とにかくいろんなコーヒーを試しましたね。梅干しのコーヒーも試しましたが、あれは不味かったなぁ。1970年あたりから、輸入されているコーヒーの味は下降線で、美味しいものが手に入らなくなってしまった。理由は量産です。各国が競争して量産をはじめてしまった。それと同時にどんどん味が落ちてきて、いまは底じゃないかな。最近になってやっと一部スペシャルコーヒーという名前でオークションに出回っていますが、そういうコーヒーでも美味しくないですね。いまは材料を輸入するのに本当に骨が折れます。

焙煎機やポットなど、コーヒーを作るための道具からご自分で考案されたそうですね。

最初はね、自分で缶詰の空き缶を利用してドラムをつくって、アルコールランプで下から火を灯して、回しながら豆を煎る方法をやりましてね。同じ銘柄でも煎り方によって味が全く変わるんですよ。焙煎の仕方で7~8割は味が決まってしまう。それに気がついてますます面白くなって。いま店で使っている焙煎機の設計も私がやったんですよ。ミルもオリジナルです。いろんな種類のミルを使いましたが、なかなか粒がきれいに揃うものがなくて、どうしても微粉が出てしまう。そうすると味が抜けないんですね、スッキリと垢抜けしない。いくら待っても良い機械が出てこないんで、じゃあ自分で作ってしまおうと、長野の機械屋といっしょに開発しましてね。市販のものより高くなりましたが、それでも200台くらい売れて、コーヒー好きの人たちに喜んでいただきました。今は豆の熟成を超音波でやろうと研究しています。うまくいけば、1~2年寝かせるだけで美味しいコーヒーになるんですよ。

好きなことだけやってきた 好きだからのめりこめた

コーヒーという一つのことに打ち込んで、店を増やしたり余計なことはせず、自分の味を守り続ける関口さんの姿には「粋」を感じます。

粋っていうのは、自分のものを排除してすっかり身軽になることじゃないですかね。煩わしいいろんなものを排除してしまって。外国からも出店の引き合いが何度か来ましたがね、全て断りました。うちのやり方は手間がかかるし、オールドコーヒーなんていうのは何十年も継続してやるもんだから、よその面倒までみきれない。60年以上商いをしていて支店の一つも出していないのはどういうことだとよく言われましたよ。徳川の前から何年も江戸に住んでいるのに、家や土地の一つも持っていない。宵越しの金は持たないですからね、好きなことしかやらないというか。それはご先祖様からしっかり受け継いでいるんじゃないですかね。

格好いい大人というのはどんな姿なんでしょうか。

さあ、どうなんでしょう。むずかしいですね。まあ他のことでも同じことが言えるんだけど、一つのことをやりだしたら興味を持って夢中になることも大事ですね。のめりこんで他のことをあまり気にしないで一辺倒で追求する。もし自分の仕事を義務でやっているなら、それは地獄ですね。好きなことを見つけるのが大変だって言いますけど、まずやってみないと分からない。コーヒーは自分が好きだからのめりこんだだけ。誰からも要求されていないし、人に勧められた覚えもない。偶然に好きだったのが良かったんじゃないですかね。

― カフェ・ド・ランブルのカウンターに座ると背筋が伸びる感じがします。メニューにあるのはコーヒーだけですが、その一杯の奥がとても深いですね。

コーヒーを淹れるのはカウンター越しのお客さんとの真剣勝負。コーヒーを飲んだ後、お客さんの満足した顔を見るのが何よりの商売冥利ですね。うちのコーヒーを飲みに遠くから来るお客さんもいる。それで店が閉まってたというんじゃ申し訳ない。だからうちは年中無休なんですよ。これからも当たり前のことを淡々と、自分が美味しいと思うコーヒーを出し続けていきたいですね。

カフェ・ド・ランブル
http://www.h6.dion.ne.jp/~lambre/